おはようございます。
石﨑遊太です。
SNSでの投稿や以前の振り返り記事でも触れましたが、6月定例会において、私を含めた議員7名の連名で意見書案(地方自治法改正に対する慎重かつ丁寧な議論を求める意見書案)を提出し、賛成多数で可決に持っていくことができました。
先輩議員のご助言を賜りながら、法律案の勉強から文書の作成や各会派への説明に至るまで、発案者として駆け回りました。
賛同くださった議員、そして背中を押してくださった関係者の皆様には感謝しかありません。
今回の記事では提出に至った改正法の問題を中心に、個人的な想いをじっくりとお伝えしたいと思います。
なお、意見書の内容説明(石﨑が行いました)、反対討論、賛成討論の実際の流れは下記のリンクよりご覧いただけます。
こちらは一般質問と異なり10分ほどの内容ですので、もしよろしければ…
なお、最初に申し上げておくと少し長文です。
(ざっくり読んだとしても20分以上かかってしまうと思われます)
そんな余裕も時間もない、という方は下記リンクをクリックいただけると、終盤の要点にジャンプできますので、ご活用ください。
それでは始めます。
そもそも“意見書”とはなにか?
議会用語の中での意見書とは、議会の意思を意見としてまとめた文章になります。
これは地方自治法にも明確に定められている、議会としての“権利”といって差し支えないでしょう。
普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の公益に関する事件につき意見書を国会又は関係行政庁に提出することができる。
『普通地方公共団体』という用語を解説するとややこしくなるので、都道府県や市町村といった地方自治体と捉えて問題ないと思います。
以降の説明でも誤解をおそれず地方自治体という用語を使用します。
要は意見書という形で、国会・省庁に対してそれぞれの市町村議会や都道府県議会(=地方議会)の考えや意思を表明できるわけなんですね。
意見書に法的な拘束力はありませんが、市民の代表である議会の議決により生まれるものであるわけですから、意見書を受理した機関は真摯に受け止めなければなりません。
今回、私は国の改正地方自治法案に関する一連の流れに疑問(憤り?)を感じており、仮に議会において否決されるとしても、少なくとも議案化まで持っていった上で、一議員としての意思表示を行いたいと考えていました。
地方自治法改正自体についての解説
「地方自治法の一部を改正する法律案」いわゆる改正地方自治法案は令和6年3月1日に閣議決定され、国会に提出されました。
概要について、地方自治法の管轄省庁である総務省が公表した資料を下記に掲載します。
内容がごちゃごちゃしているので、大きな番号(1~3)に沿って整理すると、
- デジタル化(DX)対応
- 公・共・私の連携
- 国と地方自治体の関係に関する特例
という3本柱になります。
今回の意見書で指摘しているのは③についてです。
メディアが指摘している問題点も部分もおおよそ③に関してなのですが、実は①と②の項目についても問題点のある内容となっています。
意見書の中に①と②についての問題点も含めるべきなのか相当悩んだのですが、意見書の内容が非常に煩雑になってしまうことに加え、③が最も根源的かつ重大な問題を抱えていると考え、この部分のみに絞ったという経緯があります。
ですから以下の項目で論ずる問題点は、③の『国と地方自治体の関係に関する特例』に限定していることをあらかじめご了承ください。
地方自治法改正が抱える問題点(③について)
総務省の概要資料を再度抜粋して、該当部分を確認します。
赤破線の囲み部分(②)をご覧ください。
要はここに記載された要件を満たし、閣議決定という手続きさえ踏めば、国が地方自治体に対し必要な指示ができるという特例が設けられる、という内容です。
一言でいうと、国の地方自治体に対する指示権が拡大することになるわけです。
このどこが問題なのか、できるだけわかりやすく解説していきます。
これまでの地方分権改革の流れの中で、国と地方自治体の関係は『上下・主従』から『対等・協力』へと変わりました。
もちろん、戦後制定された日本国憲法においては第8章に『地方自治』という独立した章を設け、その時点で地方自治制度自体、そして地方自治体のある種の独立性(=地域のことはその地域の住民で決めるということ)は憲法という最高法規によって手厚く保障されています。
しかし実態として、国が圧倒的な権限と財源を握る中央集権体制から脱することはできておらず、地方自治の精神がなかなか発揮できない状況が続いていたのです。
この流れを大きく変えたのが2000年のいわゆる第一次地方分権改革であり、国と地方自治体の関係が『対応・協力』であることをあらためて関係づけるルールと原則が構築されました。(詳細は省きます)
『対等・協力』の関係である以上、国から地方自治体に対し一方的な指示を出すということは原則として想定されません。
“原則として”と述べたのは、改正前の地方自治法にも自治体の事務に関して、是正の要求や指示が行える条文事態は存在するからです。(第245条の6~8)
しかしこれらは“法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるとき”という条件の中で行われるものであり、条文としてはかなり制約の強い限定的なものとなっています。
ですからこれまで実際に発動されたケースは少なく、国から県へ、また国から指示を受けた県が市町村へ是正の要求や指示をおこなったこれまで数件ある程度です。
いや、でもやっぱり国からの指示が必要な場合もあるんでないの?
確かに現状でも、上記以外に実際に国から地方自治体への指示が認められている場合があります。
それは感染症法や新型インフルエンザ等対策特別措置法、災害対策基本法といった個別法により規定された指示です。
法律の名称を見ただけでも何となくイメージがつきやすいかもしれませんが、一例として新型インフルエンザ等対策特別措置法の指示権に関する条文を抜粋してみます。
(政府対策本部長の権限)
政府対策本部長は、新型インフルエンザ等のまん延により、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがあるにもかかわらず、第一項の総合調整に基づく所要の措置が実施されない場合であって、新型インフルエンザ等対策を的確かつ迅速に実施するため特に必要があると認めるときは、その必要な限度において、指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長並びに前条の規定により権限を委任された当該指定行政機関の職員及び当該指定地方行政機関の職員並びに都道府県知事等に対し、必要な指示をすることができる。
つまり、万が一新型インフルエンザ等への適切な措置が実施されない場合には、政府として必要な限度で指示をだすよ、ということですね。
こういった規定が想定している状況をイメージすれば、これらの指示権には納得感があると思います。
そう、私は国から地方自治体への指示権自体を否定したいわけではないのです。
そこに確かな必要性と正しい根拠があれば、むしろ肯定したいくらいです。
①改正前の地方自治法においても指示権の規定は存在する
(ただし非常に限定的)
②個別法において、必要に応じた指示権は認められている
この2つの前提が確認できたところで、あらためて改正法案の内容を見てみましょう。
破線で囲った②の【要件】と【手続】の部分を見てください。
簡単にまとめると
個別法で想定できない緊急事態がおきたら発動できるよ!(めちゃくちゃ曖昧)
その判断主体は閣議決定(政府)でOK!(当該自治体の関与は…?)
ということになります。
この発動基準の曖昧さと手続きの恣意性が特に問題視されている部分なのです。
実際にこの部分についての国会の質疑答弁を見ていると本当に滑稽です。
(質問)どのような事態を想定しているのか⇒(答弁)想定できない事態だからわからない
この堂々巡りなんですよね。
(久々に国会(総務委員会)の質疑を細かく見ましたが、答弁が予想の斜め上を行く酷さで驚きました…)
法律を学んだことをある人なら誰もが知っている、『立法事実』という概念があります。
簡単に説明すると、法律を制定(改正)するためには、その制定目的と手段に合理性を付与する事実がなければならないとするルールです。(当たり前の話です)
今回の法律で言えば、まず『法改正が必要な理由はなんなのか?』という問いに答えられなければ立法など認められないということです。
この立法事実が、あまりにも稀薄なんですよね。
この法改正がないと誰がどのように困るのか、ここが明確に説明できないわけです。
さすがに政府としてもこの立法事実の指摘は無視できず、コロナ禍で感染症対策について国と地方自治体との間で調整が難航するなどの課題が表面化した旨を根拠として挙げています。
でもこれって、先にも述べた感染症法の改正といった個別法に対する立法事実なんですよね。
(事実、感染症法はコロナ禍で改正を行って対応ができています)
今回のような対象が限定的でない一般法としての地方自治法改正の根拠としては、あまりにも弱すぎるのです。
そもそも、国が指示を出せばすべてうまくいくなんて保証が、どこにあるのでしょうか。
現場の状況を最も把握しているのは当然ながら、現場で働く自治体の市長や役所の職員であり、国ではありません。
このことについては、2016年に起きた熊本地震での教訓を忘れてはなりません。
最大震度7を観測した熊本県益城町では、家屋の倒壊を恐れて屋外や車内で非難する方が数多く出ました。
この事態に対し、国は早いタイミングで屋外非難している住民を迅速に屋内に収容するよう指示(厳密には要請)を自治体に出したようです。
そこで対応に苦慮したのは益城町役場。
総合体育館のメインアリーナを開放すべきか否かの判断を迫られましたが、当時の町長は一部損傷していたアリーナに避難することによる二次災害のリスクを鑑み、開放を断念する決断を下しました。
その翌日未明、震度7の地震が再び町を襲い、このアリーナの天井パネルはほぼ崩壊。
もし開放を行っていたら、多くの死傷者が出ていたことでしょう。
※詳細はこちらの記事(東京新聞TOKYO Web)をご覧ください。
この一連の流れについていえば、国の要請として“直接的なアリーナへの収容指示”があったのかは調べても確認がとれませんでしたが、いずれにせよ現場の判断が重要になる典型例であることは間違いありません。
コロナ禍の対応においても、本当に国からの指示があればすべてうまくいったのでしょうか。
いずれにせよその検証がしっかりと行われたとは言い難いと思います。
そして何より、今の政府に自治体行政の“現場力”を凌駕するほどの対応力があるとは到底思えないのです。
…少しとりとめのない内容になってしまいましたが、あらためて改正法案の問題点を整理すると下記のようになります。
- 特例(指示権)を発動する要件が曖昧であること
- 発動のための手続きが閣議決定のみで、恣意的な運用が行えてしまうこと
- 立法事実が明確でなく、拠り所のコロナ対応での困難という部分も検証が不十分であること
こうした考えをもとに、賛同議員の皆様のご意見も含めて簡潔にまとめ上げたのが、今回の意見書の内容になります。
※実際に可決・提出された意見書はコチラ
いきなりこの文面だけ見てもなかなか理解しにくいと思うのですが、ここまでの解説をお読みいただけると少しクリアになるかと思います。
(なっていなかったら私の説明力不足です…)
とにかく重要なのは、これまで地方政治に関わる先人たちが築き上げてきた地方分権の流れと逆行しかねない法改正であるということです。
繰り返しますが指示権の拡大を含めた改正法の内容すべてを否定しているわけではなく、これだけ重要なテーマなのだからもっと時間をかけて議論すべきというスタンスです。
他の自治体の状況について
このように多くの議論の余地が残されている改正法ですが、他の自治体では同様の動きは起こっていなかったのでしょうか。
全国47都道府県の市と東京都の特別区を合わせて815団体の議長により構成される全国市議会議長会のサイトでは、それぞれの市や区が議会において可決・提出した意見書の一覧を検索することができます。
県議会および町村議会の情報は含まれていないことに加え、気を付けなければならないのはここに掲載される情報が議会として意見書が可決(提出)されたものであることです。
つまり議会内で提案は行われたものの、議会として否決されたものは検索に引っかかってこないということです。
その前提で、今現在(7月21日)時点で地方自治法改正に対する何らかの意見書が提出された自治体を下記にまとめてみました。(提出順)
都道府県名 | 市名 | 人口[千人] | 可決日 |
山形県 | 山形市 | 239 | 2024/3/19 |
熊本県 | 宇土市 | 36 | 2024/3/19 |
長野県 | 駒ヶ根市 | 32 | 2024/3/21 |
広島県 | 庄原市 | 32 | 2024/3/21 |
石川県 | 金沢市 | 446 | 2024/3/22 |
大阪府 | 泉大津市 | 73 | 2024/3/22 |
東京都 | 小金井市 | 125 | 2024/3/25 |
滋賀県 | 大津市 | 344 | 2024/3/29 |
北海道 | 札幌市 | 1969 | 2024/6/4 |
神奈川県 | 三浦市 | 41 | 2024/6/12 |
北海道 | 美唄市 | 19 | 2024/6/13 |
福島県 | 白河市 | 58 | 2024/6/13 |
埼玉県 | 春日部市 | 230 | 2024/6/17 |
埼玉県 | 越谷市 | 342 | 2024/6/20 |
北海道 | 苫小牧市 | 168 | 2024/6/21 |
長野県 | 中野市 | 43 | 2024/6/21 |
東京都 | 小金井市 | 125 | 2024/6/21 |
北海道 | 旭川市 | 322 | 2024/6/24 |
千葉県 | 匝瑳市 | 34 | 2024/6/24 |
長野県 | 松本市 | 235 | 2024/6/27 |
神奈川県 | 南足柄市 | 39 | 2024/6/27 |
長野県 | 長野市 | 363 | 2024/6/28 |
北海道 | 小樽市 | 106 | 2024/7/1 |
長野県 | 上田市 | 152 | 2024/7/1 |
全国で計24市、自治体の規模に関わらないところが面白いですね。
そして表の上部、つまり3月の議会において意見書を出した自治体の動きの速さはすごいなと思いました。
議会が常に国の施策にアンテナを張っていなければできないスピード感です。
提出前にこうやってあらためて調べてみて「えっこんなに少ないの!?」と驚いたのですが、三浦市での可決後にも複数の議会が続いていることがわかります。
上で述べた通り提案はしたが否決されたという議会も少なくないでしょう。
法改正を推進する政権与党の政党所属議員は、(三浦市がそうであったように)こうした意見書には反対のスタンスを示すと考えられるからです。
そういったケースも含めれば、日本全国の地方議会で論戦が繰り広げられたことは間違いありません。
同時期に国会議員の裏金問題が大々的にクローズアップされたこともあり、報道の傾向としてはあまり目立たない位置づけとなってしまった本改正ですが、それだけこれからの地方自治にとっては大きなテーマだったということです。
今回の意見書を通じて私が伝えたかったこと
ここまで読んでくださった方、本当ありがとうございます。
実は私が一番書きたかったのはここなのです。
もう少しだけお付き合いください。
正直に申し上げて、この改正法が国会において可決してしまうであろうことは覚悟していました。
現在の国会の議席の構成上、どうしたって数の理論で通ってしまうからです。
国会の与党議員が唯一気にする部分といえば、次の選挙への影響(世論の高まり)でしょう。
ここに淡い期待は抱いていましたが、実際のところは世論もあまり盛り上がることはありませんでした。
先述した裏金問題が注目を集めてしまったこともありますが、根本的に多くの人に関心を持ってもらうには、テーマとしてのわかりにくさも足を引っ張ったと思います。
しかし、それでも私は地方自治の一翼を担う市議会議員の一人として、三浦市の未来を担う政治家の一人として、その矜持を公の場で示したかった(残したかった)のです。
「何かあったら国が指示を出してくれるから大丈夫」
こんな指示待ちの思考で地方の行政職員が働くようになったら、日本はどうなってしまうでしょうか。
むしろ想定できない事態だからこそ、国と自治体が上下ではなく対等の立場で連携し合わなければならないのではないでしょうか。
三浦市の職員は限られた予算と少ない人員の中で、誇りを持ちながら懸命に働いてくれています。
(時々力を入れるポイントがずれているのでは?と思う部分は私が一般質問等で指摘している通りですが…)
彼ら彼女らのそうした尊い努力を奪いかねない国のシステム改変に、我々議員が声を挙げなくてどうするのでしょうか。
そもそも我々地方議員は、市民の未来に責任を持つ覚悟ができているのでしょうか。
来賓として招かれたイベントに出席するだけで、仕事をした気になっていないでしょうか。
自分の意思などどこにもなく、単なる国会議員の選挙のための手足に成り下がっている議員はいないでしょうか。
政党に所属している議員は、“地域にとっての利益”と“政党の論理”が天秤にかけられたとき、どちらを優先するのでしょうか。
「自分がこの地域の未来に責任をもっていくんだ!だから国は余計な口出しをするな!(連携・協力は存分に!)」
そんな強い意志を持った首長や地方議員が大多数を占めるようになったとき、日本の政治は変わったといえるのだと思います。
自戒の念も含め、私は意見書の提案説明の結びに、こんな言葉を付け加えました。
本意見書は、議員一人ひとりが本市の未来を背負う市議会議員としての重責を再認識し、今後一層の自己研鑽と熟議に努めるという意思表示でもあると考えています。
皆さんのご賛同をお願い申し上げまして、提案理由の説明とさせていただきます。
そして今回の一連の流れについては、国民(市民)の皆さんの姿勢も大事になってくる部分です。
「自分の地域の役所(役場)よりも、国の官僚が作った施策の方が安心でしょ…」
こう思ってしまった時点で、地方自治や地方分権の前提は崩れ去ってしまうのです。
もちろん住民にそう思わせてしまう背景には、地方議会や地方行政の不祥事や努力不足(あるいは国の官僚の巧妙さ)もあるのでしょう。
でもいずれにせよ、自分たちの地域の未来に責任を持たなければならないのは、決して政治家や行政職員だけではないのです。
私は地方の政治が変わらなければ、日本の政治が本当の意味で変わることは無いと確信しています。
だからこそ、私はこの三浦市の政治家として全力で働くことを誓ったのです。
…すみません、少し熱くなりすぎました。
結果として、これまで解説してきた改正法案は参議院を通過し、大方の予想通り成立となりました。
しかし今回、この三浦市においてこうした意見書を可決できたことは大きな意義を持っていると思います。
意見書は改正法の廃案を求める内容ではありませんから、今後も運用に関して目を光らせたいと思います。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。